名古屋広告業協会会員によるリレーエッセイです。
2016年3月4日公開
第20回「ネクタイ論」
もう40年も経ってしまったが、入社試験の面接には学生服で臨んだ。 スーツなど持ってなかったし、わざわざ買う気もなかった。 当時はそれでよかった。入社が決まると、父からは「ちゃんとした格好をしろ!いいものを着なくちゃだめだ!」と言われ、馴染みの店でオーダーメイドのスーツを2着作らされた。 給料が全部吹っ飛んだ。
当時の父は、ネクタイには特にこだわりがあって、「いいか!ぐちゃぐちゃした柄はだめだ。 ネクタイはシンプルなものがいい。だから色使いは3色まで、できれば2色!」などと自信たっぷりのアドバイスをもらった。 父は身だしなみにうるさかったし、当時の私は素直だったので、父の教えに従った。 それからネクタイ選びには、色数を確認する癖がついた。 照明が暗い店では、店員さんにお願いして、色数を数えてもらったりした。 不思議そうな顔をするので、理由を説明するのが、なぜか照れ臭かった。 4年前父は逝ったが、今でもその教えは守っている。
今度は兄だ。 「いいか、色は3色でいい。 どういう3色かわかるか?自然の色だ! 俺たちが日頃目にしている色だ。 空の青、木々の緑、土の茶色、これが一番人間の目移りがいいんだ」という持論。 ファッション雑誌に出ていたかどうか知らないが、尊敬する兄の言葉である。 人の言うことはほとんど聞かない私だが、兄には絶対服従だ。 一時期、青・緑・茶、この3色のレジメンタルを探し回っていた。 この3色論が正しいのかどうか、今でもよくわからない。
人からもらったネクタイはしない。どうもしっくりこない。唯一、妻が買ってきたものは、する。しなくてはならない。 40代の頃、やたらに赤系のネクタイを買ってきてくれた。 全部で20本はあった。「赤は勝負ネクタイ、ここ一番はこれよ」なんて、ビジネス書に書いてあるようなことを言う。 しょうがないので毎日赤を締めて、気合を入れて会社に行った。 還暦を過ぎてもまだ働けてるのは、そのおかげなのかもしれない。
私のこだわりも書く。 一番大切なのは、汚れが目立たないもの、具体的にはスパゲッティのソースが飛んでも何とかなる色、それと締めやすい素材、これが結構ないんです。 40年かけてたどり着いた私の結論、いささか寂しいものである。
クールビズが始まって約10年。ネクタイの売り上げは全盛期の1/3まで落ち込んで、業界は大変らしい。 だが、1年の半分、特に名古屋の暑い夏をノーネクタイで過ごせるのは有難いことだ。 その反面、やっぱりネクタイを締めたほうが仕事に集中できるし、営業活動にも力が入る気がする。 私のクールビズはいつからか、今年も行けるとこまで行くつもりである。
最後に、素朴な疑問だが、我々は何でネクタイを締めるのか。諸説あるらしいが、面白い答えがあった。
ネクタイを締める理由は、『仕事が無事に終わった後に“緩める”ため』らしい。 なるほど。