リレーエッセイ

名古屋広告業協会会員によるリレーエッセイです。

2016年6月6日公開
第22回 AIの進化で問われる人類の価値観。

囲碁の対決でAI囲碁プログラム「アルファ碁」が世界チャンピオン、イ・セドル九段に圧勝したニュースをご存知だろうか。 チェスに始まり、将棋、囲碁とより複雑なゲームに挑戦したAIの急速な進化に衝撃を受けた方も多いだろう。 そして、AIの進化が人間の脅威となるのではと考える人々がいることもまた頷ける。

しかし、今までにどの国も経験したことのない少子高齢化社会に突入していく日本において、AIは「救いの手」でもある。 AIを搭載したロボットが医療・介護、災害時の重労働等を担ってくれれば、労働力不足を補ってくれる存在として期待されるからである。

AIロボットとうまく共存していくことを人類は考えなければならないフェーズに入っているのだろう。 AIの急速な発展に寄与した「ディープラーニング」。 人間の脳の仕組みをモデルにした機械学習技術である。 コンピュータ自身が自ら学習するというこの技術がその進化を推し進めているのだ。 その背景には「ビックデータ」と呼ばれる膨大なデータをものすごい速度で処理するコンピュータの飛躍的な能力向上がある。 これらの技術が相まって私たちの生活そのものを変えようとしている。 元来、人間にとって便利であること、機能的・効率的に仕事を進め、生活をおくることを目的に開発されてきたロボット技術によって、「人間のやるべき仕事とは何か?」「倫理とは何か?」という本質的なテーマを人間自身に突きつけられている気がするのは私だけであろうか。

スポーツの世界でも人型ロボットがFIFAワールドカップの優勝国に勝利することを目指す「ロボカップ」というプロジェクトがある。 その戦いを人間対ロボットという構図で私たちは観戦するべきなのだろうか。 現代では世界大会に出場するアスリートたちを鍛える器具も使う道具も最先端技術の粋を結集したものである。 それらを駆使して記録を目指すことが当然のこととなり、その傾向はますます強まるだろう。 生身の人間そのものの強さを争う競技の記録が、人間の開発した技術の力を使って更新されていることもまた事実である。 最先端技術と付き合うことによって、自分たちが持つ価値観や道徳について、今まで以上に深く考えることを強いられる時代が来たのかもしれない。 どのような社会を創っていくのかは、科学技術の課題ではなく、「価値観や道徳をどうやって社会で共有していくか」という課題であろうから。

私が思うには、「人間とは何か?」を知るために様々な技術革新が推進されてきたのではないかということである。 逆に言えばイノベーションを求めざるを得ないのが人間の宿命だとすれば、そのイノベーションをどう進め、理解し、人間の生活に有効活用していくかの「思想・哲学」がいつの時代にもパラレルで求められたのだろう。 好奇心で選んだはずのテーマが、書いているうちに、なんとまあ、哲学的な話になってしまいました。

【著者紹介】

幹事 クリエーティブ委員長
株式会社 電通 中部支社
顧客ビジネス局 局長

清谷 典生(きよたに のりお)