リレーエッセイ

名古屋広告業協会会員によるリレーエッセイです。

2020年11月24日公開
第53回「名古屋を元気にする広告」

引き続きADKクリエイティブ・ワンの加藤英明です。

今回は「名古屋のクリエイティブ」について書かせていただきます。
と言っても、偉そうに語れるほどの人間ではないのでゆるく書かせていただきます。

30年以上ずっとこの名古屋で広告を制作し続けてきました(CMプランナー12年、クリエイティブ・ディレクター18年)。電通の𡈽橋さんの言葉を借りれば、私もいわゆる「ネイティブ名古屋クリエイター」です。

通常業務ではほぼ気にしてはいませんが、それでも時々は、東京や関西の広告との違いを意識したり、「名古屋のクリエイティブ」と言えるオリジナルな特長はあるのか、地域に根差したコミュニケーション方法はあるのかと、とりとめもなく考えることもありました。 DX(デジタルトランスフォーメーション)が進む現在、もはやそんなことを言っている時代ではないのかもしれませんが。

そんな中、明解に「名古屋のクリエイティブ」に関して意識させてもらうことになるのが、名古屋広告業協会の「広告価値向上キャンペーン」のクリエイティブ審査会です。
今年も参加させていただきました。

この「広告価値向上キャンペーン」は歴史もあり、毎年素敵なクリエイティブ表現とともに、その年ごとのテーマを訴求していています。


平成21年度

平成22年度


かつては協会内の「知的財産管理委員会(現・広告価値向上委員会)」が審査を行っていました。 ところが、数年前、決定案が既存の書籍の表紙と偶然にも類似してしまい、不幸にも印刷物の回収に至ったことがあったそうです。 それを受けて2013年、同様の事態の発生を未然に防ぐために、日ごろ制作の現場で様々な広告表現に触れている会員社のクリエイターによる「審査会」が新たに設けられることになりました。

この「審査会」の設置によって、クリエイティビティでの評価はもちろんのこと、類似表現、コンプライアンス、差別表現等、様々な見地からの確認を同時にしながら審査を進めていける体制となりました。 という訳で、「審査会」自体は最終の企画決定権を持ってはいないのですが、その審査結果はかなり重要で重たいものであると認識しています。


平成25年度

平成27年度


このシステムになってから、毎年「審査会」に参加させていただいているのですが、私にとってはとても意義ある時間だと考えています。

その理由の一つは、名古屋のクリエイターたちの「今」を感じられるからです。
ここ数年テーマが同じにも関わらず、毎年様々なアイデアが集まってきます。 まさに「今」を呼吸しているクリエイターたちのアウトプットを一度に見ることができるのです。

もう一つの理由は、審査員同士のディスカッションです。 日頃は競合相手として戦っている広告会社のクリエイティブ・ディレクター達が、審査会では呉越同舟となります。 一緒になって案を選んでいくのですが、みなさんのそれぞれの考えに、共感したり、新しい発見があったりと、とても刺激的な体験ができるのです。 (ちなみに、1社だけ名古屋支社長自らが参加されています。 営業目線のわかりやすい物差しを提示していただけて、これまた興味深いです。)

また、審査会を進行される議長として、2018年までは電通の中山さん、昨年からは同じく電通の岡本さんが担当されているのですが、その人柄で会場の空気を温めつつ、中立の立場で審査員のみなさんの意見を引き出しながら進行していく技術もまた勉強になります。(名人芸!)

さて、今年の審査会ですが、新型コロナの影響でどうなるか心配されましたが、感染予防を完璧にした上で「リアル」での実施となりました。 事務局の方のお話ですと、オンラインでの審査も考えたそうですが、たくさんの応募作品のすべてを実物で見て、審査員同士が顔を突き合わせて議論した方が、正しい判断ができるのではと、「リアル」での実施を選ばれたそうです。 実際、やってみると納得できます。

今年の審査会は、9月3日、大名古屋ビルヂング5階CD会議室で14時からスタートしました。
審査員は9名。廣告社、三晃社、新東通信、大広WEDO、電通、電通名鉄コミュニケーションズ、東急エージェンシー、博報堂、ADKクリエイティブ・ワンから各1名ずつの参加です。
感染症対策として、マスク着用義務化、入室時の消毒、会議室の換気(扉を開放しておく)、座席間隔の確保、入室時の検温(非接触体温計)、ペットボトルの水のみ席に配布など、万全を期しての実施となりました。

審査の段取りはきわめてシンプルで、途中で様々な議論はしますが、基本は決まるまで何度も無記名投票を繰り返す方式です。

今年も提出された全ての表現案が、壁伝いに置かれた長テーブルにズラリと並べられていました。
全部で78案。 今年のテーマである「名古屋を元気にする広告」を踏まえた各企画案が、広い会議室内を一周していました。 それを審査員各自が、ソーシャルディスタンスに気を配りながら、1案1案吟味して回った後、投票を行います。 (無口です、みなさん。)

原則として「『審査会』の段階では修正前提で選ばない。」というスタンスで企画を見ます。 公平のため、出された表現はそのまま世に出るという前提で審査をします。 「コピーやデザインをもっとこうすれば選ぶのに。」という思いは封印です。

1次審査では一人5案に投票します。その結果30案が残りました。
引き続き2次審査。一人3案に投票、さらに約半数の16案に。
ここまでは自社案には投票できません。
3次審査は一人2案に投票し12案まで絞られます。

ここでいったんボードに貼りだし、審査員全員で各案の、主にコンプライアンスチェックをしました。 加えて協会の制作物として問題ないかも。
実は、この時点で突出して票が集まった企画が1案ありました。 ただ、その案には「一企業の宣伝になっている。」という指摘がありました。 それに対し「コピーを修正すればその懸念は払しょくできる。」との意見も他の審査員から出ました。 そこで、その案を即NGとはせずに次の審査ではその点も踏まえた上で投票することになりました。
そして4次審査。ここでは各自2案に投票です。

この4次審査の時点で9案に絞られました。さきほど最多得票だった案は残ってはいましたが、得票数は大幅に減りました。やはり「『審査会』の段階では修正前提で選ばない。」の原則に、審査員の皆さんが従ったのだと思います。

さらに議論をした後、5次審査は一人1票を投じたのですが、票が完全にばらけ、1案減っただけの8案が残りました。
そこで、再度各案に対して、案を絞り込むという目的で、少し意地悪な目線で意見交換をすることになりました。 今回は新型コロナを意識した企画も数多くあり、それはそれで共感性の高い表現もありました。 ただ、その表現が1年間(例えば収束後も)機能するのかどうかも議論しました。

さらに6次審査、ここでも一人1案に投票です。それでもまだ6案が残っていました。
ここでもう一回、各案のグッドポイント、バッドポイントを各々論じた後、7次審査の投票に進みます。

このタイミングで、議長の岡本さんより「次が最後の投票になるだろう。」との発言があったため、審査員のみなさんは、席を立ち、改めてホワイトボードに貼りだされた6案を、ボディコピー含め何度も何度も見直しました。

そして、一人1票での最終7次審査での投票を行い、票数の順位で候補作と次点を決定しました。

昨年までは5次審査で決定していたことを考えると、今年はかなり僅差の競り合いになっていることがわかります。 審査会に初めて参加される方も数人いらっしゃったこと、ソーシャルディスタンスで間をあけた着席もあったせいか、例年より少し静かな雰囲気の審査会でしたが、それでもみなさんプロとしてしっかりと発言されていましたので、最終的には審査員9名全員が納得した審査結果となりました。
審査終了は予定の16時を過ぎていました。

ここで残った候補作と次点が審査会参加各社による最終コンプライアンスチェックを経た後、「広告価値向上委員会」で検討され、最終的に「幹事会」で正式決定に至っています。 (決定案は本HPでご覧ください。)

さて、当然のことですが、最終的に採用されたのは1案だけです。

私が今回お伝えしたいのは、惜しくも選ばれなかった77案についてです。
様々な切り口と表現方法で制作された全ての案から、この地域のクリエイター達の真剣かつ熱い思いが強く伝わって来ました。 なおかつ近年の特長ですが、カンプの仕上げの精度も大変素晴らしいものがありました。 審査会のメンバーが違えば、全く別の案が選ばれていてもおかしくない、高いクオリティの表現ばかりでした。 選ばれているから優秀で、選ばれなかったのがそうではないということは決してありません。

話は冒頭に戻りますが、もしも「名古屋のクリエイティブ」というものが存在するのであれば、このクリエイター達の熱量と層の厚さをその特長として挙げても良いのではと考えています。
近年はこの地域からも海外の様々な広告賞の受賞者が出ています。 それは突然変異でも偶然でもなく、熱い思いと志を持ったクリエイター達が集まり、切磋琢磨しているこの土壌の賜物ではないでしょうか。 これからは東京や関西と比べるのではなく、世界を見据えて「名古屋のクリエイティブ」を語るべきかもしれません。

「広告価値向上キャンペーン」の今回のテーマは、「名古屋を元気にする広告」です。
もしかしたら、「名古屋のクリエイティブ」が既に世界と戦えるレベルまできつつあることを、この地域のクリエイターひとり一人に気づいてもらい、自己肯定感を高めてもらうこともまた、この名古屋を元気にする方法の一つではないかと、選ばれなかった77のアイデアを眺めながら感じました。

来年はどんなテーマになるかはわかりません(私が「審査会」に参加できるかどうかも)。
でも、今年同様、「我こそは!」という高い志の応募があることを今から楽しみにしています。

そこに、世界レベルのアイデアがあることを期待して。

【著者紹介】

ADKクリエイティブ・ワン
エリアビジネス局
中部ソリューショングループ クリエイティブ・ディレクター

加藤 英明(かとう ひであき)