リレーエッセイ

名古屋広告業協会会員によるリレーエッセイです。

2024年6月10日公開
第64回「災い転じて福となす」

はじめましてオリコムの笹川です。この4月に名古屋支社に着任早々Jeki小嶋さんから早速ご指名いただきました。 小嶋さんとは30年ほど前に媒体の現場でご一緒させていただきました。 当時ゴルフのデビューの際、車に同乗させていただいたことが思い出されますが、時を経てまた名古屋の地でご一緒できるとは思いもよりませんでした。
自己紹介も兼ねて乱文となるやもしれませんがお付き合いいただければと思います。

「…肺に陰が見えますね」

人生の転機は思いがけずに訪れる。
30代後半働き盛り。夜分までの仕事が終わると毎晩のように飲み歩き体重も着実に上昇一途。
ベルトの穴も行きつくところまでたどり着き、人間ドックではいよいよイエローカードの1枚や2枚は…と思っていた矢先のまさかの一発レッドカード。

鯨飲馬食の生活ではあったものの喫煙だけは避けていたこともあり大いに戸惑いながらも精密検査の末に診断が下された病名は「肺結核」
小説や映画では聞いたことがあれどもまさか自分が…幸い自覚症状が出る前の初期段階とのことで検査の上、投薬治療で治癒する方針が示されそこから半年以上に渡っての間断の無い「投薬」が始まった。 錠剤で1日に10錠以上。3度に分けて摂取するもこれもなかなかにつらい。
一方で毎晩のように飲んでいたビールについて医者に尋ねると少し難しい顔をしながらも「まぁ、禁酒まではせずとも薬と相性が良いわけではないので少し控えては」とのことで家でのビールは炭酸水に代替、どうしても出席しなければいけない飲み会だけに絞り10カ月余り、検査の結果無事完治の診断が下るとともに気づけば社会人になって初めて体重が低減し数年ぶりの60キロ台後半を指し示していた。
こんなことも滅多になかろうと思いがけない病と不節制な生活への戒めを込めて旅行がてら4か月後のフルマラソンにエントリーすることに。 今思えばここが全ての始まりになろうとはこの時点では露ほども思わず、ほとんど練習らしい練習もしないまま前日のオリオンビールを数杯に止めお祭りと化したNAHAマラソンに身を投じなんとか完走。 デビューにして即引退を公言していたものの結果は4時間1分。 全身の筋肉痛に悲鳴を上げながらも「ここまできたら、4時間を切ってサブフォーの称号だけでも手にしよう」と翌春の都内のフルマラソンにエントリー。
今度は数か月週末を中心に練習を重ねた成果か一気に3時間11分のタイムを計時。 陸上競技未経験ながらもこれはひょっとしてこの競技に向いているのかも…とこの期に及んで漸く気づきコンスタントに練習を積み始め翌年40歳の年に2時間59分、その3年後には2時間49分を計時し遅ればせながらいよいよ本格的にフルマラソンの世界に没入していくことになりました。

今年度の別府大分毎日マラソンにて。出場9回を数え、もはやライフワークとなっています。

とは言え練習は毎朝30分前後のジョグ、週末を中心に2時間ほど適当に近所の公園や河川敷、周回路でアップダウンを繰り返すのみの自己流単独トレーニング。
ほとんどのレースでサブスリーを出すことが当たり前になるとともに次第に苦しい練習を極めタイムを縮めることよりも自分のカラダがどんな風になっているのか、の方に興味の軸足が移り2週連続のフルマラソン(どちらもサブスリーでしたが体には悪いのでオススメしません)や暑さ寒さの中のレースなど今までに計40以上の各地のフルマラソンに出場。50代も半ばを越えた今はとりあえず年に数度フルマラソンに出場し体力の限界とフルならではのレースの綾に向き合ってきました。そうこうするうちに48歳時の2018年にはベストの2時間45分54秒を別府大分マラソンで記録。我ながら「思えば遠くに来たもんだ…」本当に人間何が幸いするのかわかったものではありません。

弊社名入りのランシャツを自費制作。広報活動?の一端を担っているとかいないとか…

こんな生活を続け当然、体重は低値安定し酒量は変わらずとも入社当時の体重もキープ、一時は危ぶまれた諸数値もほぼフルマークに改善と良いことずくめではありますが、何よりもレースや練習を通じて全国各地にマラソンを軸にした知己が広がり、出張や旅行のついでに現地を走り回り飲んで食べてと思いがけず充実の中年期が訪れることになるとは、あの人間ドックでのレントゲン写真の前で茫然自失していた頃には考えも及ばなかったことです。
一病息災とも言われますが、予想外の出来事で人生どう転ぶのか、本当にわからないものです。
現在は機会があれば朝方名城公園界隈をぐるりと走り、前夜積極的に摂取した酒精や熱量の費消に努めています。残念ながら名古屋には男子のフルマラソンが存在しないとのことですが、機会を見つけて東海エリアのレースに出場するべく現在鋭意検討中です。

【著者紹介】

株式会社オリコム 名古屋支社
支社長

笹川 英哉(ささかわ ひでや)