名古屋広告業協会

名古屋広告業協会会員によるリレーエッセイです。

2016年10月12日公開
第25回 「近くて遠い中国での個人的経験」

株式会社読売広告社の水谷支社長よりご指名を頂きました、博報堂中部支社の浜口です。 私は、2014年1月から2016年3月末までの2年3カ月、中国の「広東省広代思博報堂広告有限公司」に勤務をし、この4月に中国より直接名古屋に赴任しました。 名古屋での日々は刺激的で大変楽しく、あっという間に半年が経とうとしてます。とはいえ、まだまだ名古屋での日々を語るほどには経験を積んでおりませんので、せっかくですから、知らない方々が多い、中国での生活・日系広告会社での仕事ぶりについて超個人的な紹介をさせて頂きます。

知らない方々が多い、と書きましたが、現在中国の在留日本人数は、13万5千人で、アメリカの41万3千人に次いで、ダントツの2番目です。(ちなみに3番目はオーストラリアの8万2千人、4番目がイギリスの6万7千人です。*平成26年外務省領事局政策課発行「海外在留邦人数調査統計」より) 世界有数の巨大市場で、激烈な戦いを続けている日本人がこんなにも多くいるのに、中国でのリアルな生活話は伝わりにくいようです。それは、広すぎる、大きすぎるから!でしょうか。

さて、私が生活し仕事していたのは、中国広東省広州市。広東省は中国に23ある省の1つ。面積は北海道の2倍以上、人口は1億849万人です!広東省には、深圳市や東莞市等と日本人が多く働いて暮らしている街がありますが、広州市は中国の都市の中で最も面積が広く、その人口は、1,293万人、在留邦人は6,183人です。気候は南国亜熱帯気候、年間平均気温22.4℃、平均降雨日数144.8日、平均湿度75.3%です。 広州市には、トヨタ自動車・日産自動車・本田自動車と日本の自動社会社3社が進出し、生産拠点も設けています。広州市商工会いわく「中国のデトロイト」とのこと。工場は、市中心部から車で1時間ほどのところに多くありますが、多くの駐在員が住むのは、天河区。

天河区では、サッカーAFCアジアカップを行う競技場のある広州体育中心エリアと、2010年の広州アジア大会で急激に開発が進んだ、海心沙・花城広場を中心とした珠江新城エリア(この2つのエリアは隣り合わせに繋がっています)に多くの駐在員が住んでいます。 私が住んでいたのは、珠江新城ですが、生活エリアとしては、2年以上、全てこのエリアで事足りてしまいました。 このエリアには、イオンもユニクロも無印良品もダイソーも、マックもミスドもすき家、一風堂もワタミもetcあります。 また、世界の5つ星ホテルも数えられないくらいあり、現在も建築中です!?( THE RITZ-CARTON、GRAND HYATT、FOUR SEASONS、HYATT REGENCY、ASCOTT、Oakwood、MANDARIN ORIENTAL、Marriott、Sheraton、WESTIN、HILTON、etc) 加えて、超大型の高級モールが数多く乱立し、ブランドショップが目白押しです。 どこにこんなに客がいるのか?という疑問はさておき、手に入らないものは、本当に何一つないと言っても過言ではありません。 実際、日本からの出張者の方々も「ここだけなら、まるでシンガポール」「まるで、ヒルズとミッドタウンが一緒になったみたい」と言ってました。 多くのビルが50階建て以上(100階建て以上が複数棟)、20階建てだと低く見える環境です。

加えて、南国らしく、緑も豊かで、大型の公園も数多くあり、有名な珠江運河が、街の景観に彩りを与えてます。 少しだけ裕福な人々は、車でホテル・モールに乗り付け、市井の人々はビルの谷間で食事をし、ランドマーク広州タワーを見ながら公園を散策しています。
北京・上海で悪目立ちしているPMはそれほどひどくなく、空気で悩んだことはほとんどありません。

「手に入らないものは、何一つない」と書きましたが、実は、食事に関しては、いくつか手に入らないもの、満足いかないものがあります。 まず、おいしく安全な「生卵」。ですから、「卵掛けご飯」は最高の贅沢になります。 次に、おいしい「蕎麦」。これは、あきらかに水の差。中国は、 慢性的な水不足の国であり、雨が多く水に困らない広州でも、日本の山岳と緑が作り出す豊饒な水の美味しさには全くかないません。 (海外にいると、水道の水を飲める日本の贅沢さを実感します。中国では、当然水道の水をそのまま飲むことは出来ず、料理にも蒸留水を使います。) ですから、水をふんだんに使う料理は、なかなか美味しいものに出合えません。 そして、「寿司」。まぁ当然ですね。新鮮な生の魅力は、産地・採れたて限定ものです。最後に「鰻」。 これは、もう食文化の違い、というしかありません。炭火でしっかりと焼きあげた鰻を食べる喜びは、全く存在しません。 中国の方々も鰻はよく食べますが、基本、煮て食べます。焼いてる場合もありますが、焼き加減とタレの合わせ具合は、ひたすら??です。 からっと、ふっくらと美味しく焼き上げる、これは日本でのみ食べることが出来るのではないでしょうか。 ということで、当時は日本出張時に、毎回、蕎麦と寿司と鰻を食べて中国に戻っていました。

こうして、生活しながら体験し感じていたことを書き出していくと、あれもこれもと、とりとめもなく、終わる気配もありませんので、ここで、私が働いていた広告会社とその仕事ぶりについて、紹介したいと思います。 私が社長を務めた「広東省広代思博報堂広告有限公司」は、中国地場の広告会社と博報堂との合弁会社です。お得意先も日中合弁会社で、得意先の各部門には、日本人と中国人それぞれの部長がペアでいます。 得意先への提出物は、全て日本語と中国語の2バージョンが必要です。また、プレゼン、打合せ時においても、全て日・中の通訳を行います。(逐次通訳が通常ですが、時間制限のあるプレゼン時等には同時通訳設備を完備します。) つまり、全てにおいて時間・工数とも日本の倍以上かかることになります。プレゼン企画書作成時には、翻訳の時間を逆算した作業スケジュールがマル必です。得意先はもとより社内においても、100人の社員のうち翻訳・通訳という専門職が6人おり、日本語を操れる社員が他に9人いました。日々の仕事においては、彼らに全面的に頼りきっており、彼らの精勤ぶりには本当に頭が下がる思いと感謝しかありません。 この、常に日中2バージョンという制約と各商品のマーケット状況以外は、広告業務フローは、日本での日常と全く同じです。各種広告制作物、イベント企画・実施においても、今や高いレベルにおいて日本と同様と言っていいと思います。

しかし、メディア環境・事情においては、大きく違います。中国においては、TVは地上波・衛星・ケーブルと全1,300局以上。チャネル数は2,500以上です。日本のNHKにあたるCCTV(中国中央電視台)でも21チャネル。NPも全国で2,000紙強。あまりにも多くて、このメディアプラン作成に関しては、私の理解と能力をはるかに超えていましたので、あまり詳しくありません。(メディアプラニングについては、メディアバイイング会社にお願いをしていました。一応、ターゲット設定に基づくリーチシュミレーションによるプラニングです。) 加えて、完全な私見ですが、中国では、ODMの影響力が大変強いように思います。ビルボード以外にも、バスラッピング、いたるところにあるビジョンでの映像等、全ての景観を無視して広告が氾濫しまくってます。というより、氾濫する広告の爆発そのものが、中国都市部の景観といえます。

そして、何よりも、最もすごいのは、デジタル環境の進展具合です。FACE BOOKもYou Tubeも閲覧することはできませんが、微博(ウエイボー:ミニブログ)・微信(ウエイシン:チャット)という中国オリジナルSNSがものすごく普及しています。微博の個人アカウント数は5.6億、微信の登録ユーザー数は11.2億人と言われています。また、ニューヨーク証券取引場にも上場し、世界最大の小売・流通業といわれるアリババのネット販売売上は、キャンペーン日の1日で、1兆7,600億円(2015年11月12日)。もう何もかもが想像を超えており、このデジタル空間で交わされる情報についての正確な捕捉は不可能なのではないでしょうか。また、微博・微信、アリババには独自の電子マネーがあり、この電子マネーで、日常のお店での買い物・食事から、タクシーの支払いまで可能なのです。まさに生活を支えるインフラと化しており、企業発の情報もキャンペーンもこのデジタル空間目指して大量に流入しています。CMはもとより、新商品発表会の模様、商品説明映像も即時アップされていますし、日本の専門誌にあるような商品比較評価のようなコンテツページも溢れています。人々は、この情報を友人たちと交換しながら日々暮らしているのです。この空間でどう関心を引き、情報交換・キャンペーン参加を活性化させるかが、広告キャンペーン成功の鍵であり、グローバルブランド企業もエージェンシーもこぞって知恵を絞り続けています。 とまぁ、ややいびつですが、私には世界最先端の環境と競争が、中国広告市場で展開されているように思われます。しかし、この大変な情報環境で生き抜いていくのは、テクニカルな技術も重要ですが、やはり情報とそれを伝えるコンテンツの信頼性と質の高さこそが必要であり、それは永遠に万国共通である、というのが私の思いです。

最後に。中国に限らず、アジア圏では、広告業界というのは、女性の職場である、というご報告です。何故かはわかりませんが、私の勤めていた会社でも6割強が女性社員。
他の会社においても(それはイベント会社でも、制作会社でも)、半分以上は女性が働いており、経営者やマネジメント層においても、本当に多くの女性が活躍しています。その女性たちの優雅でパワフルなこと。日本も、いつかそうなるのか・・・と思いながら、超私的、中国で働いたアドマンのごくごく一部の感想・報告を終えます。

ここまでに書いた内容、紹介した数字の正確性については、最初の、「平成26年外務省領事局政策課発行「海外在留邦人数調査統計」」以外は、かなり怪しいことはお許しください。 ありがとうございました。